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政府 死因究明の促進へ初の白書      党・死因究明等対策プロジェクトチーム(国重徹事務局長・衆院議員)

2022年10月19日付公明新聞より転載

犯罪の見逃しなど防ぐ 解剖実施率の低下が課題に

人が亡くなった原因を明らかにする死因究明。

その柱となるのが解剖制度で、高齢者の孤独死や乳幼児の不審死、働き手の突然死など、病院以外で亡くなる人が増える中、ますます重要度が高まっている。新型コロナ療養者が自宅で亡くなるケースもあり、政府は公衆衛生の観点からも対策に力を入れている。9月には、これまでの取り組み状況を示す白書が初めて公表された。問題の背景を解説するとともに、必要な取り組みや課題を日本法医病理学会理事長で和歌山県立医科大学教授の近藤稔和氏に聞いた。

警察で扱う遺体が急増

警察が取り扱う遺体の死因究明の流れ

死因究明が不十分なため、犯罪などが見過ごされるケースが後を絶たない。

2007年に愛知県で、当初は病死と診断された力士が、解剖によって暴行を受けていた事実が発覚。また同年、北海道北見市で発生した、14人が死傷したガス漏れ事故では、急性心不全と診断された最初の被害女性が、解剖により実はガスによる中毒死であったことが分かった。

これらのケースでは、初めから正しく死因が解明されていれば、その後の捜査の迅速化や、被害の拡大を防ぐことができたといわれている。

死因を解明するために有効な手段は解剖である。

警察が取り扱う遺体の解剖には、犯罪またはその疑いのある遺体を調べる「司法解剖」と、一見して犯罪の疑いはないが、死因不明瞭のために行う「行政解剖」などがある。

遺体解剖率の推移

しかし近年、解剖が進んでいないことが課題となっている。警察庁によると、年間死亡数約144万人のうち、病院以外で亡くなった人など警察が取り扱う遺体は、この20年で4割増え、21年には約17万体に上る。その一方、実際に解剖した割合を示す解剖率は、上昇傾向にあったものが16年をピークに低下に転じ、21年は約1割にとどまっている。

背景には、新型コロナの影響で感染対策が十分でない施設での解剖控えに加え、遺体を調べることに対する遺族らの根強い拒否感情があるとされる。また、警察によって事件性がないと判断されれば、解剖は行わないという制度上の課題も指摘されている。

このため政府は現在、死因究明のための解剖体制の強化に向け、警察や地元の医師会、大学の法医学教室など関係機関との連携・協力を推進。遺体内部を撮影する画像診断や薬物検査の拡充のほか、解剖を行う施設の充実に取り組んでいる。また、解剖で得られたデータを、新型コロナなど病気の予防・治療といった公衆衛生の向上につなげる取り組みも進めている。

公明、推進法成立をリード

こうした中で9月には、死因究明に関する対策をまとめた初の白書(22年版)を公表。これは公明党のリードで19年に成立した死因究明等推進基本法(議員立法)に基づくものだ。

地域差解消、人材養成が急務

白書では、行政解剖の実施割合が東京、神奈川、千葉、兵庫など大都市地域で高い一方、実施率が低い地域があることを踏まえ、地域差の解消が急務である点などが報告された。

また、政府が昨年6月に決定した「死因究明等推進計画」に基づく各省庁の対策についても記載。病理学や法医学分野の人材養成を進める大学への支援強化などが明記されている。政府は今後も解剖制度の拡充に向け、取り組みを一層進める方針だ。

日本法医病理学会理事長、和歌山県立医科大学教授 近藤稔和氏

日本法医病理学会理事長、和歌山県立医科大学教授 近藤稔和氏

個人の尊厳守るために不可欠

死因を正しく確定することは、個人の尊厳を守るために絶対に必要なことである。なぜ亡くなったか分からないまま、人が人生を終えることだけは避けなければならない。

亡くなった人の基本的人権を擁護するために解剖はある。司法解剖や行政解剖など法医解剖は、人が受けられる「最後の医療行為」だ。生きた証しを示すために行う。

子どもが急死したケースでは、解剖により、強く揺さぶられた時に生じる脳の損傷が明らかとなり、傷害致死事件が判明したこともあった。

ただ、日本では、事件性がなければ解剖は行わないという原則で長くきた。本来、事件性の有無の判断は、死因の診断から始まるにもかかわらずだ。傷のない遺体が事件性のない遺体とは限らないのに、表面だけで判断されてきた。過去においては、もしかすると犯罪死の見落としがあったかもしれない。

解剖が進まなかった背景には、遺体に手を加えることを極力避けたがる日本の文化的背景が大きい。警察が主導する事件性のある遺体が重視されてきた面もある。

日本の法医学は、明治時代にドイツから入ってきたものだが、「裁判医学」と呼ばれて、ある意味、事件に関わることに特化してしまった。元々は事件性に関係なく、広く死因究明することが眼目だった。

公衆衛生上の情報得ることも

亡くなった死者の声を聞いて生者に生かすためにも解剖は不可欠だ。犯罪捜査のためだけでなく、亡くなった人の尊厳を守りながら、生きている人の健康や安全に役立つ公衆衛生的観点からの情報を得ることができる。

死因究明の目的は、犯罪死の見逃しを防ぐためだけではない。例えば、新型コロナ療養中の患者が自宅で亡くなれば、どうして亡くなったのかを究明し、予防につなげていくことが肝要だ。

死因究明に向けた解剖制度の充実に向け、警察庁だけでなく、厚労省や文部科学省などでも、さまざま支援策が講じられていることを評価したい。白書の刊行も、こうした取り組み状況や課題を国民全体で共有するという観点で大きな意義がある。

担当省庁を内閣府から厚労省へ移すなど体制強化に向けた基本法制定(20年4月施行)では、公明党死因究明等対策プロジェクトチーム(座長=秋野公造参院議員)が大きな役割を果たしてくれた。現場で解剖に携わる者として、大変に感謝している。

解剖担う大学機関の拠点化を

今後は、高齢者や児童に対する虐待の問題や孤独死などに対応するため、司法解剖以外の法医解剖の解剖率を引き上げていくことが重要だ。司法解剖は警察庁・検察庁が主体である一方、それ以外の法医解剖は都道府県など自治体が中心である。国の積極的なリードを求めたい。

個人的な考えとして、各地で解剖を担う大学機関の拠点化も必要だ。2、3人の解剖医がいる各地の大学を糾合し、12人程度の体制で担当エリアを広域化すべきではないか。解剖そのものの質を保ち、地域のニーズに応えていくためには必要な措置と考える。

解剖を支える医師以外のスタッフの充実にも光を当ててほしい。私が所属する大学では年間250体程度の解剖を行っているが、スタッフの協力体制で円滑に実施できている。スタッフの育成・確保に向け、めりはりの利いたさらなる支援も期待している。

こんどう・としかず

1967年、兵庫県生まれ。金沢大学医学部卒。医学博士。同大法医学講座助手、講師を経て、2003年から現職。この間、ドイツ・ミュンヘン大学法医学研究所客員研究員。現在、九州大学医学部など全国の大学で非常勤講師も務める。日本法医病理学会理事長。厚生労働省の死因究明等推進本部専門委員。これまで関わった解剖は4800体を超える。

 
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