衆議院本会議で「民法の一部を改正する法律案」に対し、党を代表して質問しました。
以下はその議事録全文です。
○國重徹君
公明党の國重徹です。
私は、公明党を代表し、ただいま議題となりました民法の一部を改正する法律案について質問をいたします。
未来は現在にあります。今、私たちがいかなる方向へ一歩を踏み出すか、その選択が未来をつくります。
どのような国、団体、組織であれ、次世代の成長なくして発展はありません。とりわけ、少子高齢化が急速に進む我が国では、未来を担う若者が、政治、経済、文化といったさまざまな分野にかかわり、その中心となって活躍していくことが期待されます。だからこそ、若者が安心して活躍できる社会の土台、みずからの責任を自覚し、自立できるような環境を整えていくことが必要です。
平成十九年、憲法改正国民投票法の制定の際に、選挙権年齢や成年年齢も二十歳から十八歳に引き下げることが望ましいという政策の大きな方向性が示されました。その後、選挙権年齢は十八歳に引き下がっています。
G7等の主要国を含め、十八歳成人は今や世界の主流です。世界の趨勢、我が国の将来を見据え、民法の成年年齢を十八歳に引き下げることは、後に述べる環境整備を前提に、適当であると考えます。
▸成年年齢引下げの積極的意義
成年年齢の引下げは、法的には、親の同意なく一人で契約をすることのできる契約年齢と親権の対象となる年齢を十八歳に引き下げることを意味します。また、一般国民の意識の上でも、十八歳をもって大人として扱うことが見込まれます。
そこで、上川法務大臣に伺います。
成年年齢を引き下げる積極的意義は何なのか。約百四十年ぶりの歴史的な法改正を機に、いかなる社会を目指し、若者が活躍できる社会をどのように築いていくのか、明快な答弁を求めます。
▸消費者被害の防止
次に、消費者被害の防止に関して伺います。
成年年齢が引き下がり、契約年齢が引き下がるということは、消費者被害から未成年者を守る最大の防波堤である未成年者取消し権を十八歳、十九歳の者が失うということでもあり、それらの者が悪徳商法のターゲットとされる危険性が高まるということでもあります。現に、全国の消費生活センター等に寄せられる相談件数は、二十歳を境に急増しております。
本改正により、若年者の消費者トラブルが拡大するようなことがあってはなりません。それを防ぐ鍵は、事前予防としての消費者教育と事後対応としての若年者救済制度の充実です。
この点、政府は、社会経験が乏しい若年者などを対象として、契約取消しの範囲を拡大する消費者契約法改正案を今国会に提出しました。もっとも、これでカバーできる範囲は限られており、義務教育段階からの実効性ある消費者教育の推進が喫緊の課題です。
そこで、今回の法改正をチャンスと捉え、教員向け研修の強化にとどまらず、生徒、学生にとって実践的でわかりやすい教材の提供や、外部講師の活用を含めた消費者教育の取組を強力に進めていくことが必要と考えます。林文部科学大臣の見解を伺います。
▸若年者の自立を支える仕組み
若年者の自立を支える仕組みについて伺います。
少子化が進む一方で、ニートや引きこもり、不登校など、困難を抱えた子供、若者は依然多くいます。
自立とは、依存しなくなることではない、自立とは、依存先をふやすことだ。
これは、脳性麻痺の障害を持つ小児科医の熊谷晋一郎さんの言葉です。
自立に困難を抱える十八歳、十九歳の者に適切な支援の手を差し伸べることなく、成年年齢を引き下げ、親権の対象となる年齢を引き下げると、これらの若年者がますます困窮するおそれがあります。
この点、政府は、平成二十八年二月に子供・若者育成支援推進大綱を決定し、若年者の自立を促す施策を講じていますが、その効果の浸透はこれからです。
そこで、その検証や、親権の対象年齢の引下げによって新たに生じる懸念も踏まえ、若年者の自立を支える取組をより一層進めるべきと考えます。加藤厚生労働大臣、林文部科学大臣の見解を伺います。
▸成人式の時期・あり方
成人の日が一月第二月曜日であることから、大半の自治体では一月に成人式を行っています。
成年年齢の引下げに伴い、十八歳の一月に成人式をすることになると、受験シーズンと重なります。また、同窓会的な雰囲気のあったこれまでの成人式とは様相の異なるものとなり、我が国の文化も大きく変わります。
成人式は、人生の新たな門出であり、晴れの式典です。若者を困惑、落胆させるようなものにしてはなりません。その時期やあり方は、最終的には主催者である各自治体等の判断に委ねるとしても、政府として、成人式にかかわる関係者の意見を集約、発信するなど、必要な取組を進めていくべきと考えます。林文部科学大臣の見解を伺います。
▸環境整備に向けた省庁横断の取組
次に、環境整備に向けた省庁横断の取組について伺います。
成年年齢の引下げは、積極的な意義がある反面、これまで述べたとおり、さまざまな懸念があるとも指摘されており、それらに対する施策の整備が進められています。
しかし、その施策や効果の浸透度はいまだ十分とは言えず、成年年齢の引下げが何を意味するのかについてさえ、ほとんど知られていない状況です。
本法案の施行日は平成三十四年四月一日と定められているところ、その適切な周知とともに、成年年齢の引下げに向けた環境整備が確実に進められるよう、政府一体となって、責任を持って取り組んでいかなければなりません。
そこで、我が党の提案、強い主張を受けて、政府は、このたび、本件に関する省庁横断的な検討会議を設置しました。では、この検討会議はどのようなものなのか。各施策の進捗状況をどのように管理するのか。各省庁がばらばらに取り組む場合と比較し、いかなる効果が期待できるのか。検討会議の議長である上川法務大臣の答弁を求めます。
▸関係法律への影響
最後に、関係法律への影響について伺います。
若年者の年齢条項を定めた法律は二百本を超えます。本改正に伴い、その適用対象が十八歳に引き下がるものも多くありますが、例えば、飲酒や喫煙の解禁年齢は二十歳を維持しています。
これらは、国法上の統一性より立法趣旨の違いを重視した結果であると理解していますが、その具体的理由は何なのか、国家公安委員長に伺います。
一方、少年法の適用対象年齢については、法制審議会が、十八歳に引き下げるべきかどうか、引き続き検討しています。
我が党は、若年者の可塑性を信頼するという少年法の立法趣旨を踏まえ、その適用対象年齢の引下げは慎重であるべきとの考えですが、少年法の保護処分は、十八歳、十九歳の者の立ち直りや再非行防止にどのように機能しているのか。その適用対象年齢を引き下げるといかなる懸念が生じるのか。十八歳、十九歳の者が少年事件の約四割を占める実態を踏まえ、上川法務大臣の答弁を求めます。
結びに、女性の婚姻開始年齢の引上げを含め、本法案は、若者や社会に大きな影響を及ぼす歴史的な法改正です。
これにかかわる立法府の一員として、その重みにたえ得る審議をしていくことを強く決意し、また期待して、私の質問を終わります。
ありがとうございました。
○国務大臣(上川陽子君)
國重徹議員にお答え申し上げます。
まず、成年年齢を引き下げる積極的意義や、民法改正によりいかなる社会を目指すのか等についてお尋ねがありました。
少子高齢化が急速に進む我が国においては、将来の国づくりの中心である若年者に早期に社会に参加してもらい、社会の構成員として重要な役割を果たしてもらうことが重要です。
国民投票法の投票権年齢や公職選挙法の選挙権年齢が十八歳と定められ、十八歳、十九歳の者が国政に参加することになったことに加えて、十八歳、十九歳の者について経済取引の面でいわば一人前の大人として扱うことは、若年者の積極的な社会参加につながるものであり、我が国の将来を活力あるものにすることに資すると考えております。
今回の改正は、このような社会を目指すものであり、こうした社会を築くためには、若年者が安心して経済取引を行うことができ、また、社会の中で自立することができるようにサポートすることが重要であると考えております。
政府としては、これまでも、成年年齢の引下げに向けた各種の環境整備のための施策に取り組んできましたが、今後も引き続き、環境整備の施策に取り組んでいきたいと考えております。
次に、成年年齢引下げに関する省庁横断的な検討会議についてお尋ねがありました。
民法が定める成年年齢を十八歳に引き下げる上では、消費者被害の拡大の防止などのための環境整備が必要です。
こうした環境整備に関しては、公明党の皆様からの御要望も踏まえ、今般、法務大臣を議長とする成年年齢引下げを見据えた環境整備に関する関係府省庁連絡会議を開催しました。これは、関係府省庁相互の密接な連携協力を確保し、総合的かつ効果的な取組を推進することを目的とするものであり、今後も継続的に開催することとしております。
この連絡会議においては、若年者の消費者教育、消費者保護、与信審査、若年者自立支援など、成年年齢引下げを見据え、対応が必要とされる課題をテーマとして取り上げます。これらの課題に関し、個別の施策ごとに工程表を作成した上で、その実施状況を連絡会議の構成員である関係府省庁が相互に共有し、施策の進捗状況を管理することを予定しております。
連絡会議には調整役として内閣官房も参加し、関係府省庁の連携体制を整えることにより、各省庁がそれぞれ独自に施策を実施する場合と比較して、関係府省庁が足並みをそろえて、必要な施策を効果的に実施していくことができると考えております。
最後に、少年法における保護処分の機能等についてお尋ねがありました。
少年法の保護処分は、少年の健全な育成を期し、性格の矯正等を目的とするものであり、その再非行防止と立ち直りに機能を果たしているものと認識しています。
少年法の少年の上限年齢を引き下げた場合、十八歳及び十九歳の者に対して改善更生に必要な処遇や働きかけを行うことができなくなるのではないか、その結果、若年者の再犯の危険性を増加させるのではないか等の懸念が指摘されています。
法制審議会においては、これらの点も踏まえつつ、少年の上限年齢のあり方及び若年者を含む犯罪者に対する刑事政策的措置のあり方について、現在、調査審議を行っていただいているところです。
飲酒と喫煙の年齢制限について、国家公安委員会委員長に対するお尋ねがございました。
国家公安委員会委員長事務代理としてお答え申し上げます。
未成年者飲酒禁止法及び未成年者喫煙禁止法が二十歳未満の者による飲酒及び喫煙を禁止している趣旨は、健康被害防止と非行防止の二点にあり、御指摘のとおり、民法の成年年齢の定め等とはその趣旨を異にしております。
近年、国内外において、飲酒や喫煙が健康に与える悪影響を防ぐための取組が強化されているところでもあり、今回の民法改正を理由として、飲酒、喫煙を禁止する年齢を引き下げることとはしなかったものであります。
○国務大臣(林芳正君)
國重議員から三つ質問がございました。
最初に、消費者教育についてお尋ねがありました。
成年年齢の引下げに向けて、若年者への実践的な消費者教育を一層充実していくことが重要です。
本年二月には、消費者庁等の関係省庁と連携し、二〇二〇年度までの三年間を集中強化期間とする若年者への消費者教育に関するアクションプログラムを決定したところです。
これを受けて、文部科学省では、小中高等学校等において、社会科や家庭科など関連する教科において学習指導要領の趣旨の徹底を図ること、消費者庁作成の高校生向け消費者教育教材の活用を促進すること、実務経験者の外部講師としての活用を推進すること、教員養成、教員研修等における消費者教育の充実を図ることなどを進めることとしております。また、大学等においても、消費生活センターとの連携の促進などを行うこととしています。
今後とも、関係省庁と連携し、消費者教育の充実に向けて取組を加速してまいります。
次に、若年者の自立支援のお尋ねでありますが、成年年齢の引下げに向けた環境整備の一環として、若年者の自立支援を進めていくことは重要と認識しております。
文部科学省としては、政府全体の大綱である子供・若者育成支援推進大綱に基づき、職場体験活動、インターンシップなど、発達段階に応じて体系的なキャリア教育を推進すること、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの配置促進により教育相談体制を充実すること、家庭教育に関する学習機会の提供や保護者への相談対応等、家庭教育支援を充実すること等を進めているところです。
これらの施策の点検、評価も含め、引き続き、関係省庁とも連携し、若年者の自立支援に努める所存です。
次に、成人式の時期やあり方についてお尋ねがありました。
成人式の実施について法律による規定はなく、実施時期や対象年齢等、そのあり方については、各市町村が主体となって検討を行い、地域の実情に応じて企画、実施していただくものと考えております。
しかしながら、成年年齢の引下げに伴い、各市町村が成人式の対象年齢の引下げを行う場合には、開催時期によっては、高校生の大学進学準備等との関連で考慮すべき事項が出てくることも考えられます。
政府においては、成年年齢引下げを見据えた環境整備につきまして、関係府省庁連絡会議を設置し、検討することとしております。このため、成人式の時期やあり方等についても、改正法案が成立した後には、この連絡会議等において自治体等の関係者との意見交換を行い、必要な情報を発信するなど、関係府省庁と連絡、協力して取り組んでまいります。
以上です。
○国務大臣(加藤勝信君)
國重徹議員より、若年者の自立支援についてのお尋ねがありました。
厚生労働省においては、若年者の自立を支援するため、キャリア形成支援や、困難を有する子供、若者への支援等を推進しております。
具体的には、子供・若者育成支援推進大綱に沿って、ニート、フリーター等の若者の社会的、経済的自立に向けた支援、学生アルバイトの労働条件確保対策、労働法に関する教育、周知啓発、社会的養護については、児童養護施設等を退所した児童等に対する二十二歳の年度末までの必要に応じた支援などの自立支援、一人親家庭については、就業支援を基本としつつ、子供の居場所づくりなどの子育て・生活支援、学習支援など総合的な支援などを進めております。これらの施策については、親権の対象年齢が引き下げられても、支援の対象年齢は維持することとしております。
成年年齢引下げに伴う懸念も踏まえ、施策の効果の検証を行いつつ、これらの施策のより一層の推進を通じて、若年者の自立を支援してまいります。
以上です。