活動報告

国会質疑

法務委 大臣所信に対する質疑

理事を務める衆議院法務委員会で、上川陽子法務大臣の所信演説に対する質疑を行いました。
上川大臣は再任のため、前回の経験を生かした取り組みを求めるとともに、
再犯防止に対する経済効果の研究を進めることや、
刑事施設内に認知症患者が増加していることに対する議論を行いました。

以下、議事録全文です。

○國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 まずは、上川法務大臣、節目となる第百代目の法務大臣への御就任、そして葉梨副大臣、山下政務官、それぞれの御就任、本当におめでとうございます。

 大臣、副大臣は再登板、また山下政務官は検察官出身の法務分野のプロということで、いずれも法務行政の見識の高い、非常に重厚な布陣だと感じております。どうか、ぜひ力を合わせて、法務行政の新たな時代を切り開いていっていただきたいと思います。

 きょうは所信質疑ということでありますけれども、上川法務大臣が九十五代目の法務大臣を離任される際の挨拶を読ませていただきました。その中にこういうところがございました。「法務委員会はじめ各委員会における審議に真摯に向き合うなか、早朝レクの回数も多く、煌々と灯りがともる日が続きました。最も早い出邸は午前三時五十分。四時からのレクに、夜を徹して準備をする担当部局の職員の仕事ぶりは、ワークライフバランスのかけらもない状態で、国会対応との両立の難しさを実感したところです。」こういったところに、私、目がとまりました。

 いろいろと悩ましい課題はございますけれども、与党の古川筆頭、また野党の山尾筆頭のもと、平口委員長をお支えして、充実した審議とともに、こういったワーク・ライフ・バランスの改善に向けて私もしっかりと汗をかいてまいりたいと思います。

 このワーク・ライフ・バランス以外にも、上川法務大臣、三年前に大臣に就任されて、約一年間、大臣として職責に当たられたわけですけれども、さまざまな悩ましい課題、また葛藤があったかと思います。上川法務大臣にとって、前回の大臣をされたこの一年間、どのようなことが最大の障害、壁だったのか、また、離任される際に悔やまれたことがあったとすれば、それはどのようなことだったのか、率直にお伺いしたいと思います。

○上川国務大臣 國重委員におかれましては、先回と同様またこの法務委員会で大きな御指導を賜ることになりますが、どうぞよろしくお願いを申し上げます。

 また、先ほどは、私の先回のときの辞任のメッセージを、その中を御紹介いただきまして、大きなエールをいただいたものと、心して頑張らせていただきたいというふうに思っております。

 私は、三年前でありますが、平成二十六年の十月二十一日から二十七年の十月の七日までの間、法務大臣を約一年務めさせていただきました。

 前回の就任時でありますが、法務省が地方支分部局も含めまして約五万三千人の職員を抱えるということにつきましても知らない状態からのスタートでございました。とにかく、起こり得るさまざまな出来事、例えば無戸籍者の問題、また、女子刑務所におきまして受刑者の出産の問題など、法務行政の各現場で日々起こる現実的な大きな課題につきまして、各部局課の専門性の高いプロの職員の皆さんの力をかりながら、職員とともに、現場目線、国民目線を大切に、がむしゃらに取り組んだ一年でございました。

 その中で、私が、法務省の今後の課題としても大切にしていきたいと思うことでありますが、当時印象に残ったことということで、ちょっと二点お話をさせていただきたいと思っております。

 まず一つ目でありますが、法務省の横の連携が弱いという点でございます。

 その一例として、当時、矯正施設で勤務するお医者さんの不足の問題が深刻でありまして、これは法律改正もしていただいたところでございますが、この矯正施設での医師不足の問題は、実は同じ問題が入国者収容所でも起きていたのでございます。

 しかし、矯正施設と入国者の収容施設では所管が異なりまして、それぞれ所管する矯正局と入国管理局の間で、同様の問題を抱えながら、その解決に向けて情報交換、情報共有をするなどして連携していこう、こうした姿勢が足りないのではないかということを感じました。

 私は、法務官署で勤務する医師が足りないというのは法務省全体の問題として扱うべきものではないかというふうに考えておりますし、また、その方がよりよい解決につながるものというふうに考えましたので、その折、関係機関に、この医師不足の問題解消のために御協力をいただきたいとお願いに伺った際には、両局長をぜひということで同行していただきましてお願いに行ったことがございました。

 このように、組織の縦割りが強いことはそれぞれ結束が強いということであります。その意味で大変いい面もございますが、同時に、問題の抜本的な解決を難しくする、また、これは地方における問題解決においてより顕著になるのではないかということも感じた点でございます。

 地方におきましては、法務省の各局部課の所管業務につきまして、例えば刑事局の所掌事務は検察庁、そして矯正局の所掌事務は刑務所や少年院、また民事局の所掌事務は法務局で行っておりまして、オール法務官署として横串型に連携をして対応すべきである案件につきましてもそのような発想になかなかなりにくいということでありまして、したがって、それぞれの機関が別々に対応しがちであるということによって、トータルとして見るとまとまりを欠き、また、政策や問題解決の先細りが生じかねないということも感じたところであります。

 ですから、日々の重要課題に対しまして迅速で力強い取り組みを行うためには、これまで以上に法務官署間の、つまり、五万三千人の方が働いているそれぞれの部署、そのしっかりとした組織の中での仕事と同時に情報の共有と連携、これについて強化していくということが重要ではないかというふうに考えたところでございます。

 また、もう一つということでありますが、法務省が社会のグローバル化におくれをとっているのではないかということを感じたことでございます。

 前回就任時におきましても、国際案件につきましては、各局部課がそれぞれの所管の範囲の中で大変質の高い取り組みを極めて地道に行っておりました。しかし、さきに述べましたとおり、組織が縦割りでありまして、この国際案件につきまして戦略的に取り組む上での司令塔の機能が弱いために、政策の有機的連携が余りとられておらず、戦略的な視点に欠ける側面があるようにも感じたところでございます。

 そこで、私、前回退任後でありますけれども、自民党の司法制度調査会長として、国民に頼りがいのある司法の実現に向けて、法の支配を国際的に浸透させる新しい日本のソフトパワーとして、司法外交、これを国の施策に明確に位置づけることなど、さまざまな問題提起をしてきました。

 私は、日本企業の国際進出に代表される社会のグローバル化の中で、質の高い日本の司法制度あるいはその運用ノウハウ、また指導人材等のソフトパワーを生かし、それを生かし切る、そしてそれによって国際社会で日本がこの分野におきましてもリーダーシップを発揮して、プレゼンスを高めていく。そして、このことにおきまして法務省また法曹実務家の役割は極めて重要でありまして、その意味で、省内に国際的な司法戦略を担う司令塔機能をつくり、オール法務省で司法外交を展開し、国際案件に取り組む必要があるというふうに考えているところでございます。

 今回、第百代目という節目の法務大臣に就任をいたしまして、前回の経験ということで御質問をいただきましたので、そのときからの問題意識も含めまして、そうした問題意識を大切にしながらこの重責に当たりたいというふうに思っておりますので、よろしくお願いを申し上げます。

○國重委員 大臣、ありがとうございました。

 今、大きく二点、お話しいただいたかと思います。前回の、横の連携また司法外交、こういったことでお話をいただきましたけれども、それに対する対応も今お話を含んでいただいたかと思います。

 その上で、百代目、本当の節目となる百代目の大臣になられて、また、よりこうしていこうとかいうようなことがもしあれば重ねてお話しいただければと思います。なければ結構です。

○上川国務大臣 先ほど申し上げたとおりでございますが、法務本省の各部局、そして全国の法務官署が、国民の皆さんの何よりも御支持と御協力のもとで、それぞれの政策課題に応じてしっかりと連携をし、そしてその能力を最大限発揮し、国民の皆さんの信頼を得るということが何より重要であるというふうに考えております。

 本来、法務行政が扱う問題というのは、国民の安全、安心にかかわる、日ごろの暮らしの中の一番基盤を支えるものでございますので、そもそも身近な問題である。そして、法務省も身近な組織でなければいけない。しかし、ともすれば、必ずしも国民の皆さんからは身近な存在であるという認識を感じていただいていない面があるのではないかというふうにも思うところでございます。

 そうした壁を乗り越えるために、まず、こちらの方からも、法務行政はこういうものだということにつきまして、広報について、積極的にこちらから広報を進めていくということ。また同時に、法律を含めまして、法的な物の考え方については、子供のときからの法教育というのが大切ではないかと感じておりますので、この充実を図るということ。また、真に重要な施策、必要な政策につきましては、やはりスピード感を持って、しっかりと結果を出していく必要があるということでありますので、もちろん省内の連携、これは、先ほどのような問題があるのではないかということで、感じてきたことをしっかりと克服しながら、また同時に、他省庁との連携、地方公共団体あるいは民間企業や民間の団体、グループ、こうしたところとも積極的に連携をしていく、そうした姿勢で、さまざまな重要政策について臨んでまいりたいというふうに思っております。

○國重委員 ぜひ、大臣、頑張っていただきたいと思います。

 次に、経済的観点から見た再犯防止に関してお伺いしてまいります。

 「刑務所の経済学」、慶応義塾大学の中島隆信教授の著書でありますけれども、この中で、次のようなことが書かれてありました。「過去に刑務所の世話になっている人が、性懲りもなくスーパーで三〇〇円分のパンを万引きしたとしよう。現行犯逮捕され、本人も罪を認めて直ちに送検、拘置所に収容されて検察の取り調べを受ける。 そのさい、国選弁護人がつく。累犯もあるので起訴されて裁判にかけられ、送検から一か月の拘置期間を経たのち、懲役六か月の判決を受けて服役、満期で出所して社会に戻る。さて、この間の費用はどのくらいだろうか?」

 大臣、どのぐらいでしょうかということは聞きませんけれども、概算で、この中島教授によりますと、百三十万円ほどかかるというような試算をされております。これは、国選弁護費用とか含めて、百三十万円ほどかかるというような推計をされております。

 続いて、中島教授は、「法治国家と呼ばれている私たちの社会は、わずか三〇〇円の万引きに対してさえ、一三〇万円もの税金を投入して後始末をしているのである。」このように書かれてありました。

 こういったことは、再犯が防止できていればお金が軽減できていたことであります。また、再犯せずに真面目に働いていれば、税金や社会保険料を納めて、国家財政にプラスになったかもしれない。治安もよくなる。刑務所内での処遇に係る費用の軽減以外にも、再犯防止がもたらす経済的効果というのはさまざまあるというふうに思われます。

 しかし、さきの中島教授は、これまで日本では刑事犯罪を対象とした経済分析はほとんどなされていない、このように述べられております。

 さまざま、経済的効用といっても、非常に難しい問題はあるかと思いますけれども、その上で、刑罰の目的はしっかりと根底に置きながらも、経済的観点から、再犯防止がいかに有用なのか、こういったことを研究して、可視化していく、これは、国の財政の観点からも、また、再犯防止政策に関して国民の皆さんの理解をより一層得ていくという観点からも、私は非常に重要なことだと思っております。

 これに関して、大臣の見解をお伺いいたします。

○上川国務大臣 國重委員から大変重要な御指摘をいただきました。

 再犯防止を進めるということでございますが、やはり国民の皆様の御理解そして御協力は不可欠でございます。そのためにも、再犯防止の効果をできるだけ見える化する、そしてわかりやすくお示しをするということは大変重要であると認識をしております。

 現在、再犯防止推進計画案を策定中でございますが、この中に、社会的インパクト評価に関する調査研究を行うということを規定しているところでございます。

 現在、刑事情報連携データベースシステムの開発を法務省でも進めておりますが、今後、こうしたシステムを活用するなどいたしまして、先ほどの御指摘のとおり、施策の経済的というか、効果、いろいろな意味での効果を検証、分析しながら、その効果を見える化し、国民の皆様に御理解をいただくようにしっかりと取り組んでまいりたいと思います。

○國重委員 ぜひよろしくお願いいたします。

 勇退された自由民主党の保岡先生、また我が党の漆原元代議士とともに、法務の予算を獲得するために財務省のところにも行かせていただいたこともあります。そのときに、大局的な観点からこのような経済的効果もあるんだというようなことをやはり言っていくことが、示していくことが極めて私は重要だというふうに感じましたので、また、こういったことを進めていくと予算の配分をより効果的なところに配分していけるということにもつながると思いますので、ぜひこういったところを推し進めていただきたいと思います。よろしくお願いします。

 次に、高齢者犯罪に関してお伺いしたいと思います。

 今、高齢者の入所受刑者は他の年齢層に比べて高どまりの傾向にございます。平成二十八年は、平成九年と比べると、総数で四・二倍、女性では九・一倍。これは、高齢化、今進んでいますけれども、これに伴う増加なのか、それともほかの要因があるのか。

 また、高齢者が出所後二年以内に再び刑務所に入所する割合は全世代の中で最も高い割合となっております。出所後五年以内に刑務所に再び入所した高齢者のうち約四割が、出所後半年未満という極めて短期間で再犯に至っております。この高齢者の再犯の高さ、再入率が高い要因は何なのか。

 この点について、矯正局長にお伺いします。

○富山政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、高齢の受刑者の入所状況あるいは再入状況は大変厳しい状態にございます。

 高齢受刑者の入所人員の増加や再入率が高い原因、なかなかこうであると断言することは難しいところがありますが、高齢者が刑事施設への収容を繰り返すにつれて、定職につけず、また住居が不安定になるとともに、身寄りがなく単身の者がふえていく、こういったことから、社会的な孤立や経済的不安といった深刻な問題を抱えているといったことがあるのではないかということが考えられます。

 当然、刑事施設におきましても、出所後に福祉の施設につないでいくといったようなことにも意を用いているわけではございますが、こうしたことを嫌って支援を受けることを拒む者も相当数おります。こういったことが主な要因ではないかと考えられるところでございます。

○國重委員 ありがとうございました。

 以前、犯罪白書の説明を受けた際に、法務総合研究所の方からもこの高齢者犯罪の増加について説明を受けました。ただ、まだこの原因については十分に研究されていないということでしたので、よりしっかりとした研究を進めていっていただきたいと思います。

 今、日本全体が高齢化が進んできて、それに伴って認知症の方もふえております。これは、一般社会の話だけではなく、刑務所内も同様でございます。

 多くの方は、犯罪というのは自分と関係ないというふうに思っているかもしれませんけれども、誰しも認知症になる可能性は否定できないわけであって、そうした場合に、善悪の判断が余りつかないままに犯罪を犯してしまうというようなケースもあるかと思います。これは、本人にとっても家族にとっても被害者の方にとっても非常に不幸なことだと思います。

 平成二十六年末時点で、法務省の調査によりますと、六十五歳以上の受刑者で認知症傾向のある受刑者は一六・七%と、約六人に一人もいることになります。この中には、福祉に適切につなげていれば、また社会の支えがしっかりしていれば罪を犯さなかった人もいるかと思われます。

 上川法務大臣、この現状についてどのように受けとめられるか、お伺いしたいと思います。

○上川国務大臣 受刑者が高齢化すると、認知症の方もその中には多く含まれるということで、御紹介いただいた特別調査を行いまして、二十七年六月時点で、六十五歳以上の受刑者のうちの認知症傾向にある者はおよそ一七%ということで、全国の刑事施設に当てはめてみますと、およそ千百人程度いるというふうに推計をされているところでございます。

 現在におきましても、認知症の傾向にある受刑者に対しましては、可能な限り集団処遇の機会を設けまして、認知症の進行や身体機能の低下をおくらせるでありますとか、また、症状等に応じまして一般の受刑者とは異なる個別の処遇を行うということで、きめ細かな対応をしていっているところでございますが、このあり方そのものについてしっかりと検討していくということにつきましては喫緊の課題ではないかというふうにも思っているところでございます。

 刑事施設におきましては、社会福祉士あるいは介護福祉士等の専門スタッフを充実させるなど、処遇の体制につきましても一層強化していく必要があるというふうに考えておりまして、またさらに、出所後におきましても安定した帰住先が確保できるように関係機関との連携をさらに強化する、こうした取り組みにつきましてもしっかりと進めてまいりたいというふうに考えております。

 いずれにしても、大変重要な問題であると認識しております。

○國重委員 高齢者犯罪、また認知症の方の犯罪というのは、極めてこれから重要な課題になってくると思います。法務省としても取り組んでいると思います、出口支援、入り口支援、やっていると思いますけれども、やはりこれはさらに強化していく必要があると思います。

 先ほど、大臣、決意の中で言っていただいた、法務省内の連携もそうですけれども、やはり司法と福祉との連携、これが非常に大事になってくると思いますので、ぜひよろしくお願いします。

 認知症と刑事司法の関係について、ちょっとお伺いしていきたいと思います。

 認知症と刑事司法の間には非常に多くの検討課題がございます。例えば、認知症の人が犯罪を犯した場合、犯行当時認知症だった場合、これは責任能力というのが問題になります。また、公判中であれば訴訟能力が問題になります。また、刑の判決、言い渡しを受けて受刑しているとき、受刑中であれば受刑能力が問題になります。

 その中で、きょうは時間の関係で、受刑能力に絞って取り上げたいと思います。

 この受刑能力に関して定めた刑事訴訟法四百八十条、これは自由刑の必要的執行停止に関する規定でありますが、ここには、「懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によつて、その状態が回復するまで執行を停止する。」とあります。

 この心神喪失の文言というのは結構いろいろ出てきますね。責任能力を定めた刑法三十九条にも出てきますし、訴訟能力を定めた条文にも出てきますし、また、この受刑能力の四百八十条にも心神喪失という言葉が出てきます。

 では、ここで言う、四百八十条で言う心神喪失の内容、また、この四百八十条の趣旨、これについて刑事局長にお伺いします。

○林政府参考人 刑事訴訟法四百八十条の心神喪失でございますが、これは、一般に、裁判によって刑の執行を受けていることを認識し得る能力が欠如した状態、これをいうと解されております。

 この趣旨でございますが、こういった、刑の執行を受けていることを認識していない、このような状態にある者に対する刑の執行というものは刑罰の目的に反する、刑罰の目的を応報と考えても、また予防と考えてもそのような刑罰の目的に反することから、本条の規定が設けられているものと理解しております。

○國重委員 今、刑罰の目的にも反するからというような答弁がありましたけれども、そこで、次にお尋ねしたいのは、ちょっと一問飛ばしまして、これまで自由刑の必要的執行停止を定めた刑事訴訟法四百八十条によって刑の執行停止となった者は、一体、受刑者は何人いるのか。これはずっとさかのぼってのことになりますけれども、とりわけ直近三年間については具体的にデータを挙げてお答えいただきたいと思います。よろしくお願いします。

○富山政府参考人 お答えいたします。

 まず最初に、平成二十六年から二十八年までの三年間、四百八十条に限らず、刑の執行停止によって刑事施設を出所した受刑者の数について申し上げたいと思います。平成二十六年が三十三名、平成二十七年が二十九名、平成二十八年が二十六名でございます。

 実は、この刑の執行停止につきましては、委員が御指摘になりました四百八十条以外に、四百八十二条という条文で裁量的な執行停止ができるとなっております。

 法務省の統計資料である矯正統計年報におきましては、この刑の執行停止の内訳として、四百八十条によるものなのか四百八十二条によるものなのかといったところまで調査をしておらず、網羅的に把握をしておりません。

 したがいまして、今、この三年間について、四百八十条によってというお尋ねになりますと、残念ながらお答えができないわけなんですが、二十八年分につきましては当局において調査をした結果がございまして、それによりますと、四百八十条による刑の執行停止の事例はゼロとなっております。

○國重委員 今、三年間に関してお答えいただきましたけれども、矯正局長が把握している範囲で結構なんですけれども、これまで四百八十条で刑の執行停止になった人がいるというのは聞いたことがありますか。

○富山政府参考人 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたとおり、当局において、統計上、どの条項に基づいての執行停止が行われたかということを承知していない関係上、非常に数少ない個別の経験しか具体的な案件を承知しておりません。その範囲で申しますと、私個人としては、四百八十条に基づく事例というのは承知しておりません。

○國重委員 ありがとうございました。

 今まで、自由刑の必要的執行停止を定めたのが刑事訴訟法四百八十条、自由刑の任意的執行停止を定めたのが刑事訴訟法四百八十二条、これを合算したものは矯正統計年報に出ておりますけれども、では、なぜこれを個別に把握していなかったのか、理由を伺います。

○富山政府参考人 お答えいたします。

 矯正統計年報と申しますのは、まさに矯正に関するさまざまな統計情報を年間で集約して公表しているものでございますが、私どもといたしましては、この受刑者の出所事由ということにつきまして、大きな出所事由としては満期釈放と仮釈放というのがメーンでございますが、それ以外に、まさに刑の執行停止、あるいは死亡、逃走といったようなことも出所事由としてあるわけなんですが、これを調査して公表する上で、刑の執行停止事由のさらにその内訳についてまでは調査をすることとしておらなかったというところが正直なところでございまして、そこまでの細かな調査を今まではやってこなかったというところでございます。

○國重委員 上川大臣、今このやりとりを聞いていただいてわかるとおり、これまで刑事訴訟法四百八十条というのが、実際に条文にはあるんだけれども、実際に適用されたかどうかというのはわからない状況にございます。これに関する判例もございません。

 先ほど申し上げましたとおり、平成二十六年末時点で、六十五歳以上の受刑者で認知症傾向のある方は一六・七%、全国で、先ほど大臣がおっしゃったように、約千百人いると推計されております。夜中に徘回をする、排せつ物を投げる、また、尿意を伝えることもトイレの位置を認識することもできずに面接室で突然排尿しようとした受刑者もいるというふうに聞いております。

 そして、この認知症というのは、どんどん、認知機能の低下というのは徐々に進行していくわけですね。このようなことからすれば、私は、受刑能力がない受刑者もいると考えるのが自然なのではないかというふうに思います。

 そういった受刑者が、これは必要的な刑の執行停止です、そういった方が、刑事訴訟法四百八十条による刑の執行停止を受けていない可能性があるというふうに私は思います。

 被告人に責任能力があるのか、また訴訟能力があるのか、こういったことは裁判所でチェックされることになりますけれども、一旦受刑すれば、受刑能力がないまま放置されても、刑務所内のことというのはなかなかこういった裁判所によるチェックも働きません。

 刑の執行停止を受けた者が、この矯正統計年報では、今これは区分けしておりませんけれども、先ほど言ったように三十人前後なわけですね。そうすると、確認すればすぐわかるわけです。ぜひ、大臣には、まずこういった現状を把握していただく。もしそれが四百八十条が適用されていないのであれば、これはどのような理由に基づくものなのか。ほかの制度の不備によるものなのかどうなのか。

 これから再犯防止推進計画も閣議決定されて、出口支援、入り口支援、しっかりやっていかれることかと思いますけれども、やはり、その中でエアポケットになっている方がいらっしゃるかもしれませんので、ぜひ、これについては、現状を把握していただいて、それがいかなる理由に基づくものか分析をしていただいて、適切な措置を講じていただきたいというふうに思います。

 法務行政というのは、華々しくはないですけれども、国民生活の基盤となる極めて重要なものだと思っております。政治の光がなかなか届かないところに温かい政治の光を届けていく、その法務行政、しっかりと私も研さんを深めて、今後建設的な議論をしてまいりたいと思いますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。

 以上できょうの私の質問を終わります。ありがとうございました。

 
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